大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)3900号 判決
【主文】
一 被告赤川英株式会社は原告に対し、金二六四万一八八九円及びこれに対する昭和五七年六月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告株式会社玉屋は原告に対し、金三六〇万三二五七円及びこれに対する昭和五七年五月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分して、その四を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。
五 この判決は主文一、二、四項について仮に執行することができる。
【事実】
一 当事者の求めた裁判
1 原告
(一) 被告らは連帯して原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する訴訟送達の翌日(被告赤川英は昭和五七年六月五日、被告玉屋は同年五月二九日)から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告赤川英株式会社(以下「被告赤川英」という。)は原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年六月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 被告株式会社玉屋(以下「被告玉屋」という。)は原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する同年五月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 被告両名は原告に対し本判決確定後一週間以内に連名で、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞及び日本経済新聞の各全国版朝刊社会面に各一回ずつ、別紙目録(三)の文案により、横一四センチメートル縦二段幅で、標題及び当事者名はゴチック活字、その他の部分は一倍半明朝活字を使用した謝罪広告を掲載せよ。
(五) 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに(一)項ないし(三)項及び(五)項につき仮執行宣言。
2 被告ら
(一) 原告の請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因
1 原告は日本国内においても著名な世界有数のファッション製品メーカーたるフランス法人であり、被告赤川英は繊維製品の製作販売を目的とする会社、被告玉屋は婦人服、婦人用品、服飾雑貨の販売等を目的とする会社である。
2 被告赤川英は、昭和五六年六月頃別紙目録(二)の意匠(以下「イ号意匠」又は「イ号表示」という。)を有する織物地を使用したブラウス(以下「本件ブラウス」という。)を製作し、これを同年一一月頃被告玉屋に販売し、被告玉屋はこれを昭和五七年二月頃一般消費者に販売した。
3 本件意匠権の侵害
原告は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)を有する。
出願日 昭和四五年一一月二日
登録日 昭和四七年九月九日
登録番号 第三五五六七一号
意匠に係る物品 織物地
登録意匠 別紙目録(一)表示のとおり。
本件登録意匠を形成する一つの意匠単位の中核はアルファベットの「Dio」の文字の組合わせにあるが、イ号意匠は、その一つの意匠単位の中核がアルファベットの「Dia」の組合わせであつて、本件登録意匠の意匠単位に酷似しており、かつその組合わせの状態、濃淡の配置が極めて類似している。又、本件登録意匠は、意匠単位が斜行状に配置され、かつ一つの単位のD文字の右端が次のD文字の左端と重なつているが、この点はイ号意匠でも同一である。更に、本件登録意匠は、上下方向における意匠単位列間において、左右方向に半ピッチずつずれて配置されているが、この点でもイ号意匠は同一である。以上のとおり、本件登録意匠とイ号意匠は極めて類似しており、一般消費者が混同するおそれがあることは明らかである。
被告らは、本件ブラウスを製作販売したことにより、イ号意匠を有する織物地を使用、販売したものであり、これにより原告の本件意匠権を侵害したものである。
4 被告らの不正競争行為
原告は、美的感覚にあふれた作品を次々に発表して世界のファッション界を常にリードしてきた、世界で最も著名なファッションメーカーの一つである。別紙目録(一)の(1)表示(以下「本件表示」という。)は、原告名称の略称たるディオールを欧文で表示した「Dior」をロゴ状に組み合わせ、これを連続されたものであるため、原告との結びつきが一見して明らかな表示であり、日本においても極めて人気の高い表示である。原告は、本件表示を有する商品を自ら製作して日本へ輸出し、あるいは日本のライセンシーに製作販売させているため、一般消費者は、本件表示を用いた商品を見るならば、当該商品が原告商品、原告業務に係る商品であることを直ちに看取する。
しかるに、前述のとおり、本件ブラウスに用いられているイ号表示は本件表示に酷似しており、このために、被告らがイ号表示を有する本件ブラウスを製作販売したことにより、本件ブラウスが原告の商品であるかの様な、あるいは本件ブラウスの製作販売が原告の営業上の活動であるかの様な混同が生じている。
5 原告の損害賠償、謝罪広告の請求
(一) 被告らは、本件ブラウスを製作販売したことにより、それぞれ少なくとも一二五〇万円の利益をあげ、原告に対してそれぞれ同額の損害を与えた。よつて、原告は被告らに対し、原告の蒙つた右損害金の支払を求める(意匠法三九条一項、不正競争防止法一条一項一号二号、同法一条ノ二第一項)。
ちなみに、被告らの得た利益をその提出による証拠をもとに計算しても、次のとおり被告赤川英は四一五万九〇八九円、被告玉屋は五四八万〇九七〇円をそれぞれ下らない。
(1) 被告赤川英
本件ブラウスの一着当たりの卸価格三〇三〇円
同一着当たりの製作原価一六一一円
同一着当たりの利益一四一九円
同販売数量二九三一枚
本件ブラウスの販売による総利益四一五万九〇八九円
(2) 被告玉屋
本件ブラウスの一着当たりの小売価格四九〇〇円
同一着当たりの仕入価格三〇三〇円
同一着当たりの利益一八七〇円
同販売数量二九三一着
本件ブラウスの販売による総利益五四八万〇九七〇円
(二) 本件登録意匠・表示は日本において極めて人気の高い意匠・表示であり、専門業者たる被告らは、本件ブラウスの製作販売が本件意匠権の侵害となり、かつ右行為により原告商品との混同が生じることを知らない筈がない。しかるに、被告らは、本件登録意匠・表示の人気及び原告商品の有する高級品質イメージに只乗りせんとした極めて悪質なものであり、被告らが他にも同種の有名ブランドの意匠を流用したブラウスを多数販売していることからすれば、被告らには、著名ブランドに只乗りしようとの故意があつたと認定できる。
被告らは流通業界においてもそれなりの規模と信用を有する会社であり、このような一定の社会的責任を有する会社において本件のような粗悪な偽物が三〇〇〇着近くも製作販売されたことにより、原告商品に対する業者・消費者の信頼感が大きく揺がされ、長年にわたり高級ファッション製品の提供者として知られてきた原告の信用と名誉は著しく毀損された。
被告らは本件ブラウスの製作販売行為について何ら反省することなく、意匠権侵害、不正競争行為の事実を全く否認し、被告玉屋に至つては、本件登録意匠に類似する意匠を有する商品が今後も店頭に並ぶ可能性があるとまで述べている。
以上の点を考慮すれば、被告らの行為により原告及びその商品についての信用が毀損され、又消費者が原告商品を買控えるに至つたことが認定しうるし、更に被告らの態度をみるならば、被告らが同種の行為を繰り返す可能性は極めて高いといわなければならない。よつて、原告は被告らに対し、消費者の買控え等に基づく逸失利益の賠償及び信用毀損に基づく慰藉料として、連帯して一〇〇〇万円の支払をなすことを求め(意匠法二三条、不正競争防止法一条一項一号二号、同法一条ノ二第一項、民法七一〇条、同法七一九条一項前段)、又原告の信用を回復する手段として、前記一の1の(四)記載の謝罪広告の掲載を求める(意匠法四一条、特許法一〇六条、不正競争防止法一条一項一号二号、同法一条ノ二第三項)。
(三) 本訴は特殊な法律問題を含む極めて難しい事件であり、法律専門家たる弁護士に依頼しなければ解決できない事案であること、原告は外国会社であるから本人訴訟が不可能であり、代理人との連絡にも多大の労力を要すること、代理人がいずれも東京に在住していて大阪までの出張に相当の時間を要すること、請求額及び認容額を勘案すれば、弁護士費用のうち五〇〇万円については、被告らの不法行為と相当因果関係ある損害と認められる。よつて、原告は被告らに対し、各々二五〇万円ずつの弁護士費用の支払を求める(意匠法二三条、不正競争防止法一条一項一号二号、同法一条ノ二第一項一号、民法七〇九条)。
6 よつて、原告は被告らに対し次の裁判を求める。
(一) 連帯して損害賠償金一〇〇〇万円(前記5の(二))と、これに対する訴訟送達の翌日(被告赤川英は昭和五七年六月五日、被告玉屋は同年五月二九日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払。
(二) 各々損害賠償金一五〇〇万円(前記5の(一)と(三)の合計)と、これに対する訴状送達の翌日(前同日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払。
(三) 謝罪広告の掲載(前記5の(二))。<以下、省略>
【理由】
一請求原因1項、2項の事実は当事者間に争いがない。
二被告らの不正競争行為について
本件表示を形成する一つの構成単位はアルファベットの「Dior」の文字の組合わせであり、イ号表示を形成する一つの構成単位はアルファベットの「Diaj」の組合わせであるが、その組合わせの状態が酷似していること、本件表示は一つの構成単位が斜行状に配置され、一つの構成単位のD文字の右端が次の構成単位のD文字の左端と重なり、上下方向における構成単位列間において左右半ピッチずつずれて配置されているが、この点はイ号表示も全く同一であることからして、本件表示とイ号表示の外観を細心の注意を払つて観察すると両者には若干の相違点を看取できるが、これを通常の注意力をもつて見ると両者は見分けがつかないほど酷似しており、一般の消費者が混同するおそれがあることが認められる。
<証拠>によれば、原告は、日本国内でも著名な世界有数のファッション製品メーカーであり、婦人服・紳士服その他モード関連商品を自ら製作して日本へ輸出したり、あるいは日本国内のライセンシー五社とライセンス契約を締結し、右商品をライセンシーに日本国内で製作販売させていること、本件表示は原告の略称である「Dior」をロゴ状に組み合わせ、これを連続させて図案化したものであり、原告自ら製作した商品やライセンシーが製作した商品には、本件表示が図柄模様として連続して付されている例や、本件表示の一構成要素がワンポイント的に使用されている例が多いため、本件表示は、原告商品あるいは原告のライセンシーの商品に用いられている表示として、日本国内の一般消費者の間で昭和五六年以前から広く認識されていたことが認められる。
<証拠>によれば、本件ブラウスは、イ号表示が図柄模様として連続して付されている生地を縫製して製作されたものであるところ、本件表示とイ号表示は酷似しているうえ、本件表示は原告商品あるいは原告のライセンシーの商品に用いられている表示として日本国内の一般消費者の間で広く認識されているのであるから、被告らがイ号表示が用いられている本件ブラウスを製作販売したことにより、本件ブラウスが原告の商品であるかの様な、あるいは本件ブラウスの製作販売が原告の営業活動(ライセンス事業)の一環であるかの様な混同が生じ、これにより原告は営業上の利益を害せられて損害を蒙つたことが認められる。
被告らは、本件ブラウスには「」の襟ネーム及び札げマークが付着しているうえ、本件ブラウスは若者向きのものであり、本件ブラウスを見て原告の商品と考える者はいないと主張する。しかし、前掲各証拠によれば、原告自ら本件表示が図柄模様として連続して付されている生地を縫製して製作したブラウスを日本へ輸出しているほか、ライセンシーのカネボーディオール株式会社も本件表示を前同様の態様で用いたブラウスを日本国内で製作販売していること、原告や原告の日本国内のライセンシーは、婦人服、紳士服、寝装品、毛皮、ネクタイ、スカーフ、ハンカチ、ハンドバック、旅行カバン、セカンドバック、傘、ベルト、小銭入れ、メガネケース、キーケース、札入れ、時計、ライター、メガネ、サングラス、宝飾品、香水、化粧品等を日本国内で多数販売しているが、右商品には本件表示が図柄模様として連続して用いられているものや、本件表示の一構成要素がワンポイント的に用いられているものも多く、本件表示は消費者の間で原告や原告のライセンシーの商品を示す極めて著名な標章となつていること、本件表示とイ号表示は通常の注意力をもつて見ると見分けがつかないほど酷似しており、両者の相違は他人に指摘されてはじめて気づく程度のものであることに照らせば、本件ブラウスには襟ネームや札げマークが付着し、本件ブラウスが若者を顧客層とする被告玉屋の店舗で安い価格で販売されていたとしても、本件ブラウスが原告の商品あるいは原告のライセンシーの商品であるかのような混同を生じることは十分に認められる。
三原告の損害賠償、謝罪広告の請求について
1 逸失利益の賠償請求について
<証拠>によれば、被告らが本件ブラウスを製作販売したことにより、次のとおり被告赤川英は六四万一八八九円、被告玉屋は一六〇万三二五七円の純利益をあげたことが認められる。
(一) 被告赤川英
本件ブラウスの一着当たりの卸売単価三〇三〇円
同一着当たりの製作原価二一三九円
同一着当たりの販売費管理費等六七二円
同一着当たりの純利益二一九円
同製作販売数量二九三一着
本件ブラウスの製作販売による純利益額合計六四万一八八九円
(二) 被告玉屋
本件ブラウスの一着当たりの小売価格四九〇〇円
同一着当たりの仕入価格三〇三〇円
同一着当たりの販売費管理費一三二三円
同一着当たりの純利益五四七円
同販売数量二九三一着
本件ブラウスの販売による純利益額合計一六〇万三二五七円
<証拠>によれば、本件表示は、原告の永年にわたる営業努力により日本国内の取引業者、一般消費者の間で広く認識せられ、高級イメージを有する強力な顧客吸引力を取得した著名標章であるが、イ号表示は本件表示と酷似しているため、本件ブラウスを購入した一般消費者のなかには、本件ブラウスが原告の商品あるいは少なくとも原告のライセンシーの商品であると混同して購入した者もいたと考えられるし、又逆に、本件ブラウスが一着当たりわずか四九〇〇円の安い価格で二九三一着もの多数が販売されたことにより、原告商品や原告のライセンシーの商品に対して消費者が抱いていた高級イメージが著しく損なわれ、原告商品や原告のライセンシーの商品を買控えるに至つた消費者もいたであろうことは、容易に推測しうるところである。以上によれば、もし被告らの本件ブラウスの製作販売行為がなければ、原告や原告のライセンシーがその頃日本国内で実際に販売したよりも更に多くの商品を販売でき、原告は、実際に原告商品を販売してあげた利益やライセンシーから受取つたロイヤリティー収入よりも更に多くの利益・収入を得て、被告らが得た純利益額程度の純利益は更にあげ得た筈であると推認することができる。そうだとすると、原告は、被告らの本件ブラウスの製作販売行為により、被告らが得た純利益額と同額の損害を蒙つたことが認められる。
2 慰藉料請求について
<証拠>によれば、原告は、日本国内でも著名な世界有数のファッション製品メーカーであり、その商品に対する消費者の高級品質イメージ、高級ファッションイメージを保持し更に向上させていくために、原告日本事務所が掌理する原告会社のイメージ広告だけで年間約八〇〇〇万円もの費用を投入しており、又、日本におけるライセンシーの選択についても細心の注意を払い、ライセンシーの製作する商品についてはデザイナーを常駐させてその全部に目を通しているほか、広告宣伝の方法や販売拠点でのディスプレイやデコレーションの方法に至るまで、すべて原告が承認する体制をとつていることが認められる。しかるに、原告商品や原告のライセンシーの商品と紛らわしい本件ブラウスが、一着当たりわずか四九〇〇円の安い価格でしかも二九三一着もの多数が販売されたことにより、原告商品や原告のライセンシーの商品に対して消費者が抱いていた高級ファッションイメージ、高級品質イメージが著しく損われたことが認められる。
<証拠>の表示品番欄には、「八〇二五(ディオール)」と記載されており、被告赤川英は、イ号表示が本件表示と酷似し、本件ブラウスが原告の商品あるいは少なくとも原告のライセンシーの商品と混同されるおそれのあることを十分に承知のうえで、故意に本件ブラウスを製作販売したことが認められる。又、被告玉屋は、婦人服、婦人用品、服飾雑貨の販売等を目的とする会社であるから、欧米の著名なファッション製品メーカーの有名ブランドや意匠・表示については十分な知識を有すると認められるところ、昭和五六年から五七年にかけて、クリスチャン・ディオール(原告)、シャネル、セリーヌ、ランバンの表示と紛らわしい表示が図柄模様として連続して付されたブラウスを多数販売しており(以上は別件関連事件の訴訟記録から当裁判所に顕著な事実である。)、被告玉屋についても著名表示に只乗りしようとの故意があつたと認定されてもやむを得ないところである。
<証拠>によれば、被告赤川英は、昭和五六年度の売上高が約一七〇億円、従業員数約六七〇名、東京、大阪、福岡に事業所を有する会社であり、被告玉屋は、同年度の売上高が約一五〇億円、従業員数約七五〇名、北は札幌から南は熊本まで日本全国に約五〇店舗を有する会社であつて、被告らは服飾業界において相当の規模と信用を有する会社であるが、このような一定の社会的責任を有する会社において、原告商品あるいは原告のライセンシーの商品と紛らわしい商品が多数製作販売されたことにより、原告商品あるいは原告のライセンシーの商品に対する取引業者や一般消費者の信用や名声が大きく揺がされたことが認められる。
以上の諸点に鑑みれば、原告が本訴を提起した翌日の昭和五七年五月二八日付の朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、サンケイ新聞等に、被告らが原告商品と紛らわしい本件ブラウスを製作販売したことにより、原告は損害を蒙つたとして、当裁判所へ本訴を提起した旨の記事が大きく掲載されたことから(以上は別件関連事件の訴訟記録から当裁判所に顕著な事実である。)、右新聞報道により被告らはある程度の社会的制裁を受け、原告の信用も幾分回復されたことを考慮にいれても、被告らの不正競争行為により原告の信用や名声が毀損されたことに対する慰藉料として、被告らは原告に対し各々一五〇万円ずつの支払義務を免れないものというべきである。
3 謝罪広告の請求について
以上によれば、原告は、被告らの不正競争行為による逸失利益の賠償として合計二二四万五一四六円、慰藉料として合計三〇〇万円の請求が認められるうえ、前述の新聞報道により被告らはある程度の社会的制裁を受け、原告の信用も幾分回復されたのであるから、被告らに対して更に謝罪広告まで命じるのは相当でないと認める。
4 弁護士費用の請求について
本訴は意匠法あるいは不正競争防止法に基づく損害賠償請求事件であり、特殊な分野の法律問題を含む事件であるうえ、原告は外国法人であるから本人訴訟が不可能であり、法律専門家たる弁護士に依頼しなければ解決が困難な事案であること、原告と原告訴訟代理人との連絡についても、提出された書類の翻訳や電話・テレックス等による通信に多大の労力の費用を要すること、本訴での認容額(被告赤川英につき二一四万一八八九円、被告玉屋につき三一〇万三二五七円)、その他諸般の事情を考慮すれば、原告が代理人に支払う弁護士費用のうち一〇〇万円(被告両名につき各五〇万円ずつ)については、被告らの不正競争行為と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
四なお、原告は、損害賠償、謝罪広告を本件意匠権に基づいても請求しているが、本件ブラウスの製作販売が本件意匠権を侵害するとしても、原告が前述の不正競争行為を理由とする認容額(被告赤川英につき二六四万一八八九円、被告玉屋につき三六〇万三二五七円)以上の損害を蒙つたものとは認められず、又被告らに対して謝罪広告を命じるのも相当でない。
又、原告は被告らに対して、連帯して逸失利益の賠償及び信用毀損に基づく慰藉料の支払を求めているが、<証拠>によれば、被告赤川英と被告玉屋が事前に相談のうえ本件ブラウスの製作販売を行つたのではなく、単に、メーカーである被告赤川英が独自に製作した本件ブラウスを被告玉屋に卸売し、小売業者である被告玉屋がたまたま被告赤川英から仕入れた本件ブラウスを一般消費者に販売したに過ぎないのであるから、被告赤川英が本件ブラウスを製作して被告玉屋へ販売した行為と被告玉屋が本件ブラウスを一般消費者に販売した行為とが、「共同ノ不法行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加へタルトキ」(民法七一九条一頃前段)とは認められず、被告らに対して連帯責任を認めることはできない。
五以上の認定及び判断によれば、不正競争防止法一条一項一号二号、同法一条ノ二第一項、民法七〇九条により、被告赤川英は、損害賠償金二六四万一八八九円及びこれに対する昭和五七年六月五日(訴状送達の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金、被告玉屋は、損害賠償金三六〇万三二五七円及びこれに対する同年五月二九日(訴状送達の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があ<る>。
(潮 久郎 紙浦健二 德永幸藏)
目録(一)
目録(三) 謝罪広告<省略>